選ばれる企業とマナー

レジャー
旭川市旭山動物園

動物本来の姿を伝えることに真摯に取り組む旭山動物園。
コミュニケーション力は、そのためのツール。

 「旭山動物園の魅力は、動物の見せ方の工夫にあると言われることがよくありますが、実は動物の”生きざま”を見せていることにあるんです」と園長の坂東元氏は話す。例えば、旭山動物園の冬の風物詩・ペンギンの散歩は、ペンギンの歩く姿を見せるために行っているわけではない。本来、ペンギンは、巣から海まで集団で歩き、餌をとりにいくという習性がある。それを知ってもらうために行動展示を行っている。また、あざらし館にある円柱水槽は、アザラシの特徴的な泳ぎ方をわかりやすく伝えるための表現。つまり、お客を動物園に呼ぶための仕掛けをつくるのではなく、その動物の習性を再現し、本来の姿を知ってもらいたいと考えているのだ。

「動物本来の姿を楽しんでもらうためには、動物と人間の信頼やマナーが重要です。でも、来園されるお客様はつい興奮して忘れてしまう。そこで、私たちのような職員が重要なのです」(業務管理・鈴木達也氏)。鈴木氏は旭山動物園の動物飼育係を希望して2015年に旭川市の職員になったばかり。そんな鈴木氏がとても印象に残っているエピソードがあるという。ある日、車いすのお客様が園内の坂道を登りづらそうにしていたのを見てサポートをした。鈴木氏としては、当然のことをしただけと笑うが、後日、そのお客様から感謝のお手紙をいただいたそうだ。「このお手紙はコミュニケーションが動物園と動物、そして人を結んでいることを教えてくれた大切な宝物」と鈴木氏。旭山動物園は素敵なコミュニケーションと出会える施設だった。

写真 ペンギンの散歩
来園者に大人気のペンギンの散歩。運動不足の解消も兼ねている。
写真 オオカミの森
ヒトが絶滅させた過ちを見つめ直そうと誕生した『オオカミの森』。

PROFILE

旭川市旭山動物園

《取材後記》

動物園だからなのか、今回取材に協力いただいた鈴木氏には接客をしているという意識があまりないようだった。しかし仕事の内容は、紛れもない接客である。ということは、そのくらい来園者へのコミュニケーションを、仕事としてではなく、“ふつう”のこととして行っているといえる。こうやって言葉にすると簡単に聞こえるかもしれないが、まさに『言うは易く行うは難し』。決して簡単にできることではない。旭山動物園がメディアなどで取り上げられるとき、イベントや動物の展示方法がクローズアップされることが多いが、人気を支えているのはそれだけではないことが、足を運ぶと体感できるだろう。